未確認ともだち物体

作/演出 みうらもとお

厚生省中央児童福祉審議会 推薦文化財

私の郷里に御姫平という地名が実在します。
御姫平。なんとロマンチックな響きだろう、きっと美しい
お姫様のドラマチックな伝説があるに違いない、と勝手
に思い込み、母に地名の由来を聞くと、「昔、お姫さんの
行列が一休みしただっちょう。ほう。私ゃあんまくわしいこ
たあ知らんだよ。おばあちゃんなら知ってたかもしれんね」
と、バリバリの静岡は藤枝弁で教えてくれた。ロマンチック
でもドラマチックでもない地名の由来で少々がっかりした。
だが、それよりその時「しまった」と思ったのは、「・・・おば
あちゃんなら知ってたかもしれんねえ」という言葉に対して
だった。
祖母が亡くなって久しい。そうなのだ、長く生きてきた人達
には、長く生きてきた人達しか知らない話が沢山あった筈
なのだ。おもしろい話や、おっかなしい話。この芝居がそん
な話を聞くきっかけになってくれればいいな。そう思う私で
あった。

これはとても「おっかなしい話」です。

トシエとタカシは、二人でなんでも屋を営む、ともだち気分の若夫婦。
ある日、タカシのふるさと「お姫平」にピクニックに行った二人がふと気づくと。どうも誰かいるみたい!?
それは、戦国時代に別れた恋人を探しつづける美しいお姫さまらしく。かわるがわるタカシとトシエの体を借りて遊ぶうち、事態は思いもかけない方向へ・・・。

見えないものが見えてくる

「未確認ともだち物体」の登場人物は、新婚気分のともだち夫婦、トシエとタカシの二人きり。が、観客は間もなく「あや姫さま」という、見えないもう一人の登場人物の存在を知ることになります。
その人は、どんな人?何を願って、どうしてここに登場したの?
・・・トシエとタカシ、いや、トシエとタカシを演じる二人の俳優を通して、実は、目に見えないもう一人の人物に出会い、その人の姿や性格、心の中までも、観客は見たり聞いたり感じたり、してしまうのです。
創造力、イマジネーション、感受性・・・。
見えないものも見ることのできる、人間にしかないすてきな力を、この作品がちょっぴりゆり動かし育むことに役立てたら幸せです。

浅野佳砂音

千島清